北海道旭川市郊外にある「斉藤牧場」は、放牧した牛の蹄が自然と草地を耕してくれるという「蹄耕法」を取り入れており、環境にやさしい牧畜として全国から注目されています。石ころだらけの山が見事な牧草地に変身したきっかけは、崖っぷちに立たされた斉藤晶さんの、発想の転換でした。

牛が耕す牧場
日本の牧畜の多くは、 木を切り倒して 表土をはぎ、 土地を造成し、 客土し、 草の種を蒔いて草地を作ることから始まり、 畜舎で飼う牛の管理まで、膨大なコストと手間をかけて行われています。これに対して斉藤さんの牧畜は、表土は石も含めて全部残し、斜面のまま木も残し、斉藤さんが笹を刈り、火入れをして、その後に牧草の種を蒔いて、牛を放牧するという、機械力をほとんど借りない「蹄耕法」で、約130haの牧場を拓いてきました。石ころだらけだった山が今では緑豊かな牧草地に生まれ変わっています。これまで日本では、機械化による合理的な牧畜を奨励していたので、斉藤さんの牧畜は否定的にとらえられたといいます。しかし、時代が斉藤さんの考えに追いついたのでしょうか。新しい農業を考える人たちや環境問題に取り組む人たちに注目されると共に、様々な賞も受賞しています。

「自然に逆らわない」発想
斎藤さん一家は昭和22年に戦後開拓で山形から旭川市神居町共栄に入植。「土地は、石ころだらけの斜面で、苦労して畑を開墾しても、収穫は野ウサギや野ネズミに食い荒らされ、ほとほと参ってしまった」と悩み抜きました。ある日、「鳥や鹿や魚は特に努力もしないのに楽しげに生きている。それに比べ人間は血のにじむような努力をしているのに全く生活は楽にならない。これは、自然に逆らうからいけないのだ」と悟ったと言います。やがて1頭の牛を入手。最初は小さな草地をつくり、牛を放していましたが、そのうち面白いことに気づきました。普通は、夏になるとクマザサや雑草が生えて人が入れなくなるような林でも、 牛が登った斜面にはそのようなものがあまり生えてこないのです。 そこに草の種を蒔いてみると、いい草地になった、 それが「蹄耕法」に取り組むきっかけとなりました。

自然の中で、生きる力を養う
斉藤牧場の豊かな自然は、四季それぞれの美しさ、楽しさをもたらします。春は桜やコブシが咲き、山菜の宝庫。夏には、川にホタルが飛び交います。秋は美しい紅葉に彩られ、キノコや山ブドウなど自然の恵みが一杯。斉藤さんは、牧場を市民に開放しています。ログハウスや研修施設、教会までも造られていて、自然の中で心身をフレッシュしたい人たちが訪れます。また、化学物質過敏症の人のための住宅も建設されていて、転地療養にやって来る人も。牧畜に夢を描く若者、日本の未来に行き詰まりを感じている経済学者、環境問題の専門家、医療従事者など、遠くは海外から視察に来る人もいます。斉藤さんは、こうした人たちを自然体で受け入れながら、「環境が破壊され、人間も破壊されつつある今だからこそ、子どもたちに、自然を大切に思う感性や生きる力を取り戻させたい。子どもも、自然の中で放牧すべきだよ」と笑います。今では斉藤さんに共感する人たちのネットワークができていますが、この輪をさらに広げたいと話します。 現代社会に蔓延する閉塞感の中で、斉藤さんの言葉は格別な重みを感じさせます。

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斉藤牧場
〒070-8032旭川市神居町共栄488
TEL&FAX 0166-62-5814(留守電かFAXへ)
JR旭川駅から約13km
旭川空港から約18km


高低差150mの山を上り下りする牛たち。
暑い時には、木陰で涼をとる。

 


倒れた木の幹から、新たな木が育つ。
自然の生命力を感じさせる光景だ。

 


大型のRV車を軽々と操り、きつい勾配を
駆け山頂を目指す。

 


「自然は宝物。みんながそれに気付いてほ
しい」と話す斎藤晶さん77歳

 


歌にも歌われている「サビタ」の花が咲き
誇る。